2009年11月26日木曜日

1本ツノ・フィーバー(後編)



前回の続きです、、



「弾準備して!」

そういいながら、車を停めた佐藤さん。

私は銃を持って外に飛び出るわけだが、
そう指示が出てから、ほんの数秒間もたつく自分を感じる。
通常、戦闘などで訓練された動きは
何の迷いもないスムーズなものなのだが
(正確に言えば瞬間的に判断している)
私の場合、獲物を確認してからの手順が遅く、
いちいち動作を選んでいる。

その違いは、わずか数秒なのだが
佐藤さんのワタシに対する言動をみれば、
その意味が場の雰囲気としてヒシヒシと伝わる。

すなわち「おそい!!」と。

そう、獲物が出てきてからは
まだまだ遅いアクションなのです、私の動きは。


車から降りて、動こうとした瞬間、

「車乗って!乗って!」

と再度指示する佐藤さん。

「ええっ!?」

と戸惑う私に「状況は常に変わるのだ」
とどこかから声が聞こえてくる。

再乗車して急発進。
どうやらシカが我々の右手河原を上流に走っていったようだ、
その数は佐藤さんいわく3頭らしい、しかしまだ私には見えない。

数十メートル後に
だっ!と車が止まる、

「いたいたいた!」

という佐藤師匠の視線の方を見ると、
ダッシュでもない歩くでもないスピードで
川を渡る一頭のシカを発見、
すぐさま川横の藪に飛び込みながら
弾を装填して銃床を肩付けする。

思えば最近になってやっと、
この動作でスコープが目の前に自然に現れるようになった。
練習も無駄ではないんだなと思いながら、
あとはクロスヘアに獲物をのせて
安全装置解除と引き金を引くだけ・・・
とその瞬間、シカの単調な横移動に上下動が急に加わり、
狙いがバイタルの上の空を切る。

シカが加速して跳ね出したのだ。


「うーっ撃てない」

と迷っている瞬間、隣から銃声がした。
そして、
それと同時か遅いタイミングで自分も引き金を引いていた。
影響されての発射だろうか?

「バン、バーン」

という連続した銃声の後、
前方の川を渡って対岸を走ったシカは
着弾後、数歩歩いて右前方に、はたっと倒れた。

どっちの弾だろう?

というワタシの自己満足的な疑問の前に
佐藤師匠が満足げに
握手の手を差し伸べてくれた。

「どっちだっていいじゃない、ひとまず握手!」

穫れた獲物を見ながら満足なふたり。
そう、一緒に猟しているんだから、そんなの関係ない・・

うーん

このとき、佐藤さんのなんというか
懐の深さを感じたのであった。


と感慨にふけっていると、

「そういえば・・・この川渡れるかな?」

「やべぇ、、胴付き忘れた」


時刻は午後3時、
北海道の氷点下の寒さと森の暗さが身に染みる・・


さて、次回、回収編。

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